四国八十八ヶ所お遍路:17番札所 井戸寺の井戸

四国にある弘法大師(空海)ゆかりの八十八ヶ所の寺を巡るお遍路には、弘法大師にまつわる伝説が語り継がれています。その中には、只のおとぎ話レベルではなく現代の人間の生き方のヒントとなるようなものが含まれています。
弘法大師は仏教の宗派の一つである真言宗の開祖として知られています。さらに、弘法大師はその人物が信仰の対象とされています。四国のお遍路も弘法大師を信仰の対象としているため、大師の法号である「南無大師返上金剛」を唱えながら回ります。
仏教にはいくつか宗派がありますが、その開祖本人に対してこれ程まで信仰が集中することは弘法大師以外にはありません。例えば、天台宗の最澄、浄土宗の法然など宗派としては広く信仰されていても開祖本人への信仰は弘法大師には及びません。
長い年月を経ても人々を魅了する理由は、弘法大師にはカリスマ性やリーダーシップを持ち、人を引き付ける行動を行っていると言うことが分かります。その多くは伝説として語り継がれています。
人間の心理や行動の原則は1000年前も今と変わりません。そのため、日常の悩みを解決するヒントがお遍路に含まれているのです。
実際、お遍路を巡る理由として「自分探し」、「精神の鍛練」といった自己啓発的な理由が多い事にも納得できます。
17番札所 井戸寺の井戸
徳島市街から約5kmの距離にある井戸寺には、その名の通り井戸があります。この井戸には弘法大師にまつわる伝説が残っているのです。
弘法大師が修業で四国の各地を巡っていたとき、この地域では飲み水が濁り不足していました。今から約1200年前は現代のような浄水システムが無かったため飲み水は貴重なものでした。
飲み水の不足により住民は苦しんでいたところ、弘法大師が錫杖(しゃくじょう)という杖を使い地面を掘りはじめると綺麗な水が湧き出てきて一夜に井戸が完成したと言われています。
この話に登場する井戸は現在も井戸寺の境内にあり、「面影の井戸」(おもかげのいど)と呼ばれています。弘法大師が井戸を掘った後、井戸の水面に自分の姿を映して石を削り自分の石像を作ったからです。
また、この井戸に自分の顔を映してはっきりと映れば無病息災、移らなければ3年以内に災いが訪れると言われています。
この寺はかつて妙生寺(みょうじょうじ)という寺でしたが、弘法大師をきっかけに井戸寺と名前が変わりました。
教訓
実際に一夜で井戸を掘ったのか、彫ったのは本人なのかということは定かではありませんが、伝説によって現代まで語り継がれています。
この話からは困っている人を助けるということは、どれほど人の心に訴えかけるか分かります。人の役に立つことを行う正しさ、そして人から認められるにはどうすれば良いかと言うことを伝えています。
当時、非常に貴重な水を困っている人に無償でプレゼントしたのです。人は何か自分にプレゼントされると相手にお返ししなければならないという心理が働きます。その結果として弘法大師は崇められたのです。
弘法大師の水にまつわる話はこれだけではありません。四国の各地、日本中にも広がっています。多くの人に貢献した結果だと言えます。
人に感謝される正しい行動は非常に影響力が強く、その人自身の価値を高めてくれるのです。