お接待とは
四国には「お接待」という文化が根付いています。お接待とはお遍路さんにお菓子や飲み物などを無償で施すことを言います。
四国に住む人はお遍路が過酷な旅であることを知っています。そのため、お遍路さんを応援する気持ちを込めてお接待をします。
最近はバスや車で気軽にお遍路ができるようになりました。しかし、かつてお遍路と言えば歩きの旅で修業のように厳しいものでした。
その当時、歩く道は整備されていません。正確な天気予報もありません。本州と四国に橋もかかっていません。つまり、今よりも過酷な状況で四国八十八カ所を巡拝していたのです。
地元に住む人はその様子を毎日見ていたので、お遍路さんの大変さをよく理解しているのです。自分がお接待をするだけでなく、子供にもお遍路さんにお接待をするように教えてきたので現在でもお接待文化が残っているのです。
また、お接待にはお遍路さんへの施しだけでなく、弘法大師・空海に対するお供えの意味も含まれています。お遍路さんは「同行二人」という考えのもと、弘法大師とともに四国を巡っているとされます。
お接待をする人は弘法大師にお供えをすることで功徳を積み、ご利益を得ようと考えている場合もあります。
お遍路さんは応援される
物を与えるだけがお接待ではありません。お遍路さんを応援する気持ちを表すものがお接待です。お遍路をしていると、「頑張ってください、ご苦労様です」と声をかけられることがあります。四国では当たり前で小学生からお年寄りまでお遍路さんに声をかけます。
私が歩き遍路をしたときに小学生の女の子に「がんばってください」と声をかけられたことが強く印象に残っています。親戚以外の小学生と挨拶を交わすのは私が小学生だった時以来だったのでとても驚きました。一方で、その女の子はすごく自然に、日常的に挨拶をしてくれました。
四国ではお遍路さんは偉い人だというイメージが染みついています。そのため私のような若者に対して合掌をされる方もいます。そのため、地元の人はお遍路さんを物質的にも精神的にもサポートをするお接待をするのです
都会で生活していると知らない人に食べ物をもらったり、通学中の学生に挨拶されたりすることは滅多にありません。もし、そのようなことがあれば逆に怪しんでしまいます。しかし、お遍路ではそれが日常的に繰り返されます。

 お接待を受けた時のルール

お遍路の作法としてお接待を受けると納札(おさめふだ)を渡すということがあります。納札とは八十八ヶ所の札所で本堂と大師堂に参拝者が納めるお札の事です。納札はお遍路用品を売る店や通販で手に入れることができます。
必ず作法通りにしなければならないわけではありませんが、最低限のマナーとして感謝の気持ちを表しましょう
また、お接待は弘法大師へのお供えの意味も込められているため、お接待を断ることはよくないとされています。弘法大師にお供えをして、功徳を積むという行為を拒否することになるからです。すると、お接待をする人の気持ちが弘法大師に伝えられません。
しかし、歩き遍路の旅の道中ではどんなお接待を受けるか予想できません。例えば、スイカ1玉を頂いた場合、重くて運びたくありません。そのような時は、無理して受け取らず気持ちだけ受け取るようにしましょう
お遍路に来ると何度もお接待を受け、そのたびに感謝することができます。

お接待の効果

四国でお遍路をすれば少なくとも1回はお接待を受けると思います。特に、全行程を歩いていく歩き遍路では地元の人との接点が多くなるため必ずお接待を経験します。
1番札所から88番札所まで進む間にお遍路さんはお接待を受けることで心境に変化が現れます。どのような変化が起こるか、それは88番札所の大窪寺の境内に行くと分かります。
全ての札所を巡ることを「結願(けちがん)」と言いますが、大窪寺の境内にはお遍路を結願した人が多くいます。そこでお遍路の感想を聞いてみると、お遍路さんは口をそろえて「感謝」の言葉を表します。
お遍路の感想が「感謝」。これはお接待による効果です。お遍路さんには四国で地元の人からお接待を受け、親切にされた思いが強く残るのです。
同時に、人は他人から恩を受けると恩返しをしたくなる心理が働きます。これを「返報性の原理」と言います。
自分がお遍路をしている最中は他人から恩を受けてばかりで、恩返しができる暇がありません。そのため、お遍路が終わると四国で受けた恩を返さなければという考えに至ります。そこで社会貢献をする人や、四国に来てお接待をする人が現れます。
「情けは人の為ならず」を無意識のうちに四国の人は実行しているのです。そこには「お接待」が重要な役割を果たしています。
お接待は当たり前?
お接待は見返りを求めません。常にギブ・アンド・ギブの精神で行われています。このような人徳のある行為を行うためには四国に住む方とお遍路さんの間に強い信頼関係があるからこそ成り立ちます。
お遍路さんを応援したいという気持ちと、それにこたえる感謝の気持ちがお接待文化を作り上げています。
しかし、お接待に応えるお遍路さんの態度が悪かったということが、よく耳に入ってきます。お遍路さんのイメージが悪くなるとお接待をしたいと思う人も減り、お接待文化が廃れていく可能性があります。
お接待を受けた時、感謝の気持ちだけは忘れないでほしいですね。