馬頭観音 

仏像は眼に見えない仏様の姿を人々が見えるように作られたものです。単に仏像と言っても様々な種類があり、意味やご利益が異なります。仏像の中でも馬頭観音菩薩(ばとうかんのんぼさつ)は馬の頭があることで有名です。
「観音様」と呼ばれる仏様は観音菩薩を意味します。観音という言葉の由来は全ての生物を観察し、その声(音)を聞き、救ってくれる所からきています。馬頭観音菩薩も観音様の一つということになります。
馬頭観音菩薩のエピソード、仏像の特徴、ご利益を順に理解していきましょう。

馬頭観音菩薩のエピソード

観音菩薩は変化する
観音菩薩と名の付く仏には馬頭観音菩薩の他に千手観音菩薩や十一面観音菩薩などバリエーションがあります。なぜ、様々な観音菩薩が存在するのでしょう。
前述のとおり、観音菩薩はすべての生物を観察し、その声を聞いて、救済する仏様です。実は、観音菩薩は1匹1匹、また1人1人のニーズに応じて最も必要な姿で目前に現れるとされています。
つまり、観音菩薩は変化するのです。観音菩薩に多様な種類がある理由は変化する様子を表すためです。変化により手が千本あったり、顔が十一面あったりします。
頭の馬は煩悩を食べつくす白馬
馬頭観音は頭上に馬頭をいただくスタイルの観音菩薩で、馬はヒンズー教の神様に由来します。ヒンズー教の神様の一つと仏教の観音菩薩が融合した結果生み出された仏様と言えます。馬が草を食べるように煩悩を食い尽くすという意味合いがあります。
ちなみに、最も基本的なスタイルの観音菩薩として聖観音菩薩があります。顔は一つ、腕と足は二本ずつで表現されています。
馬頭観音菩薩は畜生道を救う

 


馬頭観音は畜生道を救うとされています。仏教の考え方に六道というものがあり、悟りに至っていない生物は、六道のループから抜け出せない輪廻という状態にあるといいます。
六道にいる限りは煩悩や苦しみに悩まされ続け、ループを抜け出すには仏道に入り悟らなければダメだという仏教の考えに結びつきます。
人間道は人間が住む世界であるのに対し、畜生道は牛や馬が住む世界です。畜生道に生きるものは本能のままに生きる動物です。
馬頭観音菩薩は畜生類を救い、仏道に導く仏様だとして信仰を集めてきました。そのため、日本では馬が急死した際に馬頭観音像を立てて供養することが多くありました。また、交通手段でもあった馬を守ることから、交通安全の意味でも信仰されました。

馬頭観音菩薩像の特徴

 

菩薩の特徴
・髪型
・豪華な服装
菩薩グループの仏像には宝髻(ほうけい)髪型が見られます。髪の毛を結ってまとめてあります。一方、如来グループの髪型は螺髪(らほつ)と言ってブツブツしています。
また、菩薩の服装は豪華でブレスレットのような装飾品を付けています。これは菩薩がまだ悟りに至っていないという設定を表しています。一方、既に悟りに至った如来像は質素な服装をしていることが多いです。
観音菩薩の特徴
・阿弥陀如来の化仏
・蓮の花、水瓶
観音菩薩グループの仏像には額の部分に阿弥陀如来が装飾されていることが多く、これを化仏(けぶつ)と言います。なぜ阿弥陀如来が装飾されているのか、それは阿弥陀如来が如来という身分を隠している姿が観音菩薩だとされているためです。
既に悟りの境地に至った如来より、まだ悟りに至らない姿の菩薩の方が我々人間に近い存在です。
より近くで救済してくれる仏が観音菩薩です。
また、泥の中から花を開かせる蓮の花は清浄な世界を象徴し、阿弥陀如来や観音菩薩のいる極楽で咲き乱れているとされています。水瓶(すいびょう)には功徳水と言われる有難い水が入っています。
馬頭観音菩薩の特徴
馬頭観音菩薩に特有の特徴は次の通りです。
・馬の頭
・炎髪
・3つの眼
・怒った顔
・赤い身体
・馬口印
観音様の頭に馬の顔があれば馬頭観音だと分かります。馬が草を食べるように人や生物の煩悩を食べつくす意味があります。
一般的な馬頭観音像には顔が3つあり、それぞれの眉間の間に第三の眼がついている事が多いです。顔の表情はそれぞれ異なり正面は怒った顔、右は笑った顔、左は牙を出した顔です。
忿怒(ふんぬ)の形相は邪魔者を退けることを表します。怒りは表情だけでなく髪型でも表現され、炎髪(えんぱつ)という髪の毛が逆立ったスタイルをしています。一般的な観音菩薩は優しい表情をしますが、馬頭観音だけが忿怒の形相を持ちます。
また、仏像そのものや絵に描かれる馬頭観音は赤色の身体で表現されます。これは怒りによる興奮ではなく、慈悲深さを表すとされています。
手は馬口印(まこういん)を結びます。中指と小指を立てて合掌した印相は馬の口を表しています。腕の数は様々で2本から8本あります。手に持っている道具は斧や棒などの武器類が多い特徴があります。

馬頭観音菩薩のご利益

動物の供養
馬頭観音菩薩は畜生類を救い、仏道に導く仏様だとして信仰を集めてきました。畜生道は犬、猫、馬などの動物が生きる世界です。
日本では馬が急死した際に馬頭観音像を立てて供養することが多くありました。また、ペットの供養で用いられることもあります。
交通安全
昔は交通手段でもあった馬を守ることから、交通安全の意味でも信仰されています。
 
即効性のある功徳
走るのが速い馬と同じように、馬頭観音によるご利益も即効性があるとされています。