人は暑いときに汗を出して体温を下げます。寒いときは代謝を促進させて体温を高めます。このように、人には温度に対する調節機構が存在しています。
しかし、暑さによって体温調節ができなくなったり、体内の水分量・塩分量のバランスが崩れたりすることで体調を崩します。これが熱中症です。
熱中症の症状には次のようなものがあります。


▽熱中症の症状(軽度)
・めまい
・失神
・筋肉の硬直(こむら返り)
・頭痛
・吐き気

▽熱中症の症状(重度)
・嘔吐
・力が入らない
・意識障害
・歩行困難
・高体温


熱中症になりやすい人

高齢者
熱中症は単に暑さが原因で起こるとは限りません。身体の状態によってもリスクが高まることがあります。
特に、高齢者は体の水分割合が低下し、感覚器官が老化するため熱中症になりやすいことが知られています。そのため高齢者の方がお遍路をする場合には十分注意が必要となります。
年を取ると体の水分割合が次のように減少してしまいます。そのため、成人と比べて高齢者は脱水状態になりやすいと言えます。

  水分割合
成人 約60%
高齢者 約50%

また、感覚器官が衰えてくるため暑さを感じにくくなります。年を取るほど熱い温泉に入れるようになるのもこれが原因です。
疲れている人・体調の悪い人
過度の運動、睡眠不足、持病などは熱中症のリスクとなります。体温の調節機構が正常に働かなくなるためです。すると、熱が体内に残りやすくなり健康な人より熱中症を発症しやすくなります。
特に歩き遍路では無理は禁物です。夏から秋にかけてお遍路では十分にゆとりを持った計画を立てる必要があります。

熱中症の予防法

 

※水分のみの補給では電解質の濃度が低下する

水分補給+電解質補給
熱中症は汗を大量にかき、脱水状態になることが原因となります。つまり、熱中症を予防するためには水分補給が重要となります
ただし、水だけの補給では不十分です。それは、電解質の濃度が低下するためです。電解質とはナトリウムやカリウムなどの水分中に溶けているイオンです。塩分も電解質です。
電解質は水とともに移動するため、汗をかくと水分と同時に電解質も体外へ排出していることになります。ここに水分だけを補給すると電解質は不足したままとなります。
健康な人の電解質濃度は一定に保たれていますが、電解質濃度が増減してバランスを崩すと健康上さまざまな弊害が現れます。
そこで、熱中症予防には水分と電解質を補給しなければなりません。水やお茶だけでなく、スポーツドリンクや経口補水液も準備するとよいでしょう。また、梅干しや塩分が含まれている雨でも電解質を補給できます。
 
十分な休息・小まめな休憩
疲労や持病など、体調がすぐれない場合は熱中症のリスクとなります。そのため、疲れがたまっている時は無理をせずに十分な休息を取らなければなりません
お遍路の場合では歩き始めて2~3日目は体が慣れていないため無理な計画は控えて体を慣らすことを意識しましょう。特に、区切り打ちの場合は要注意です。
歩いている最中も30分に1回、1時間に一回というようにルールを決めて定期的に休憩をしましょう。歩くことに夢中になりすぎると体調への意識が弱まってしまいます。体調の変化を感じた時には熱中症が既に発症していることもあります。
休憩所を発見したら腰を掛けて水分補給です。無理をすると必ずつけが回ってきます。
風通しの良い服装
熱中症は体内に熱がこもることで起こります。効率よく体内の熱を逃がすために風通しの良い服装を選ぶようにしましょう
しかし、山の中ではマムシやハチに注意しなければならないため肌の露出は控えた方が良いです。そこで便利なグッズがお遍路さんの服装です。
菅笠や白衣は日射を防ぎ、通気性は抜群です。同時にハチや毛虫の予防となります。歩き遍路の方は菅笠が必須アイテムなので必ず購入しましょう。実際に私も菅笠には何度も助けられました。
単独で歩かない
人通りの少ない遍路道で意識を失うと救助が遅れるかもしれません。そのため、不安を感じたら誰かと一緒に歩くという方法もあります。
歩き遍路では次の札所へ同じ道を通るので他のお遍路さんと話をしながら歩くことがよくあります。お互いに相手を思いやりながら同行二人を心がけましょう。

熱中症の応急処置

意識が無い場合はすぐに救急車を呼んでください。これは付近の人が助けなければなりません。「大丈夫ですか」などと声をかけて意識の確認をしましょう。救急車が来るまでは体を冷やします。
声をかけて意識があれば日陰など涼しい場所に移動して体温を下げます。衣服の締め付けを緩めて横にさせます。この時、氷、冷たいジュースの缶、ぬれたタオルなどで首筋、わきの下、足の付け根などの大きな血管を冷やすことで効率よく熱を逃がすことができます。
同時に、スポーツドリンクや食塩水を補給させます。この時、水分だけの補給では電解質が不足したままとなるので塩分の補給も必要です。
応急処置で症状が改善しない場合は救急車を呼びましょう