お遍路と呼ばれる四国八十八カ所霊場の旅は日本だけでなく、世界中の人々を魅了しています。そのため、歩き遍路をしていると、外国人のお遍路さんに出会うことがよくあります。
私は20代で歩き遍路を経験しました。その時、外国人のお遍路さんと2日間一緒に歩いたことがありました。
外国人と話したことがあるのは英語の授業くらいで、おしゃべりした経験は初めてでした。まさか、四国の山中でこんな経験ができるとは思っていませんでした。
マレーシア人と遍路ころがし
現代のお遍路の旅はバスや自動車で巡拝することができますが、歩いてお遍路をする場合は昔ながらの「遍路道」を通るコースが人気です。遍路道は国道沿いの歩道もあれば、獣道のような山道もあります。
特に、徳島県にある11番札所の藤井寺から12番札所の焼山寺に向かう遍路道は約12.9kmの山道で標高700mの地点まで歩きます。傾斜が急なため転倒する巡拝者が多いことから、「遍路ころがし」と呼ばれるルートになります。
焼山寺に向かう遍路ころがしは歩き遍路最初の難関として知られています。山道を6~8時間かけて歩きますが、途中にコンビニや人家はありません。そのため、不安や恐怖を感じてしまいます。
そんな遍路ころがしに挑んでいると、道中で外国人お遍路さんに出会いました。そのお遍路さんはマレーシアから来た26歳の男性で、その日の宿が同じだったため一緒に焼山寺まで行くことにしました。
彼は英語か中国語しか話せなかったので、私は英語でコミュニケーションをとるしかありませんでした。受験英語は得意でしたが、コミュニケーションとしての英語は苦手です。そのため、ゆっくり話してもらい、”pardon me?”を多用して乗り切ることができました。
彼は日本が好きだという事、足が痛いということ、マレーシアの軍隊を解雇された事、仕事がつまらなかったので退職した事など何でも話してくれました。
5時間程、話しながら山道を登ると焼山寺に到着し、そこから3kmほど離れた宿に向かいましたが、宿に到着して驚きました。
その日は宿に、私たちを含めて5人のお遍路さんが宿泊していましたが、3人が外国人お遍路さんでした。なんと徳島の山の中で日本人が少数派です。
イングランド(30代女性)、カナダ(20代女性)、マレーシア(20代男性)、日本(60代男性)、日本(私)
宿を経営しているのは日本人の老夫婦で英語は分かりません。そのため、夕食や朝食の時は私が通訳的なことをしました。しかし、外国人同士の英語の会話になると速すぎて全くついていけません。もっと英語が話せたら…と本気で感じました。ここは日本なのに…
次の日、13番札所の大日寺までマレーシア人のお遍路さんと再び一緒に歩きました。どうやら外国人お遍路さん同士で親近感があるらしく、マレーシア人のお遍路さんに色々な国のお遍路さんが話しかけてきます。そのついでに私とも会話をしてくれて、いろいろな国の方とお話しできました。
ドイツ、ドイツ、アメリカ、カナダ
お遍路でこんなにも国際交流ができるとは思いませんでした。
英語が必要だと痛感
歩き遍路を経験した多くのお遍路さんは、その大変さが一番思い出に残っていると思いますが、私の場合は外国人お遍路さんのことが記憶に残っています。日本語より英語を聞いていた時間の方が多かったと思います。
しかし、私の英語能力が微妙だったため、外国人同士の会話になかなか入れなかった事が残念でした。日本人の自分が日本のことを色々教えてあげたいのに、何て言えばよいのかわからないのです。1対1の会話では相手が自分のペースに合わせてくれますが、数人集まれば私は取り残されます。
英語圏やヨーロッパの人は異国の人とも英語を使って情報交換したりお話したりすることができるので、日本人より知識があり、広い視野を持っているのではないかと感じました。
四国の田舎の山中でさえグローバル化が進んでいるため、英語は必要不可欠になります。特に、自分の考えをアウトプットできるようにすることが重要です。
井の中の蛙大海を知らず
同じ場所に留まっていると、視野が狭くなり井の中の蛙状態になります。それをどう感じるかは本人次第ですが、一歩外に出てみると全く違う景色を見ることができます。
私もお遍路で国際交流ができるなんて思ってもいませんでした。グローバルを体験するためには海外留学くらいしなければダメだと思っていましたが、四国で体験できました。
また、四国遍路ではグローバルだけでなく、日本のこと、死生観、感謝すること、宗教など普段の生活では体験することができない事があふれています。このようなことは、本を読むだけでは理解できることではありません。
普段は見えませんが、気づかないところに新たな発見が隠れています。その気づきが人生のスパイスとなるかもしれません。