仏像は仏教の信仰対象であり、人々が悟りに至るプロセスをイメージしやすいように具体化されたものです。様々な宗派や時代の流れにより様々な仏像が生み出され現代にいたります。
中でも軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)は全身にヘビを巻き付けるワイルドな仏です。軍荼利明王のエピソード、仏像の特徴、ご利益を順に説明します。
軍荼利明王のエピソード
明王とは
仏像を簡単に4つのカテゴリに分類すると如来、菩薩、明王、天に分類されます。軍荼利明王は明王グループに属し、他の仏と異なる役割を果たします。
如来や菩薩は人々を優しく悟りへ導く仏です。しかし、すべての人がその教えを受け入れるとは限りません。煩悩をたくさん持つような人には仏教の教えが届かないのです。そこで明王は怒りの形相で激しく説き伏せ、正しい道へ導こうとするのです。
明王が怒りに満ちた表情をしているのは、人々を煩悩から救いたいという優しさから発生するのです。
密教と明王
釈迦が唱えた原始仏教と現在日本で信仰される仏教には大きな違いがあります。仏教は時代とともに変化し、様々な宗派が生まれたためです。
原始仏教では釈迦の教えを忠実に守り、出家者や修行者でなければ悟りの境地にたどり着くことはできないとされました。これにより出家者と在家者、男性と女性などに格差が生じたため、大乗仏教が生まれました。
さらに時代が進み、7世紀ごろ密教が誕生しました。密教では呪術や儀式を行ったり欲望に寛容になったりと斬新な進化を遂げ、大日如来や明王が信仰されるようになりました。
ヘビを巻き付ける軍荼利明王
仏像によって服装や表情には様々なバリエーションがありますが、軍荼利明王は全身に何匹ものヘビを巻き付けているポイントがユニークです。
「軍荼利・クンダリ」には古代インドの言葉で「とぐろを巻くもの」という意味があります。ヘビの毒によって煩悩を払うという意味が込められています。それに加えてヘビは煩悩の象徴であり、性的なエネルギーを表現されます。
人体に内在する生命エネルギーをクンダリニーと呼び、通常は陰部に溜っているとされます。クンダリニーを座禅やヨガなどによって体内を上昇させ、完全に覚醒させると解脱できると考えられています。クンダリニーを仏教で象徴化したものが軍荼利明王なのです。
このように性的なエネルギーを使って悟りに至るという大胆なプロセスは密教ならではと言えます。
軍荼利明王の見方
明王の特徴
・忿怒の形相
・炎
軍荼利明王をはじめとする明王は常に怒りに満ちた表情をしています。これは忿怒(ふんぬ)の形相と言い、煩悩に満ちた人々を叱って正しい道へ導く明王を表現しています。また、明王の背後には炎が表現されます。炎は煩悩を焼き尽くすものと考えられます。
軍荼利明王の特徴
・ヘビ
・軍荼利印
・青い身体
・武器
・踏割蓮華座
軍荼利明王の一番の特徴は全身に巻き付いたヘビです。8本ある腕、2本足はもちろん、腰紐にもヘビを使っています。ヘビの毒によって煩悩を滅却させ、性的エネルギーを悟りのエネルギーに変えることをサポートします。
8本ある腕の2本は正面でクロスし、親指と小指を曲げた形をしています。これは軍荼利印と呼ばれ、軍荼利明王に特徴的な印相です。そしてもれなくヘビが巻き付いています。
その他の特徴として煩悩を払うための武器を持つこと、全身が青色であること、踏割蓮華座という2つの蓮華座に片足を上げたスタイルで立っていることがあります。
軍荼利明王のご利益
軍荼利明王には様々な障害を排除する功徳があるとされます。まず、煩悩や悪行といった自分自身に内在する障害を排除します。
これは煩悩を忿怒の形相で滅却させる明王の力と、煩悩を消してしまうヘビの毒による効果です。さらに、息災など外的な障害も排除します。
このように様々な障害は排除すれば、自然と良いことが増えることにつながります。そのため軍荼利明王には増益といったご利益もあると言われます。