歩き遍路には一貫性の法則が働く
弘法大師に縁のある四国の寺院を巡るお遍路。全行程約1200kmを歩いて巡ることを歩き遍路と呼びます。四国を一周する歩き遍路は約40日必要だと言われています。
歩き遍路に出かける人は何らかの理由があります。特に歩く人は死者の供養や、自分を変えるためといった理由が多いようです。
お遍路は唯の観光ではなく、心に訴えかける所があります。地元の人や他のお遍路さん、お遍路の開祖とされる弘法大師など目には見えない力が働いているのです。
私も歩き遍路を経験して様々な本を読むことで、心に悩みを抱える人が四国に集まってくることに納得しました。ここでは社会心理学の理論を基に内面的なお遍路の魅力を紹介します。
一貫性の法則
人間には一貫性の法則が働くことが心理学の世界で証明されています。一貫性の法則とは、自分の言葉や行動または立場に筋を通したいと思うことを言います。
例えば、あなたがダイエットのインストラクターだとします。すると、ダイエットを指導する者として太る訳にはいかないと感じ、筋トレを欠かさなくなるでしょう。
また、買い物に出かけて店に入ったが、何も買わずに出ていく時に違和感や罪悪感のようなものを感じることがあるかもしれません。何か買うためにお店に行っているという一貫性が崩れるためです。
このように、人は自分の行動に対して一貫性を保ちたいと考えてしまうのです。それは、一貫性を保つ方が社会的に良いとみなされるためです。
太っているダイエットインストラクターを信用できないのと同じで、言っていることと行動が全く異なる人は、不自然に見えてしまいます。そのため、社会で生きていくために人は自然と一貫性が身についているのです。
自分は一貫している。または、他人から一貫した人だと思われたいと思っているのです。これは悪い事ではありません。一貫性を保っている方が流れに逆らわず楽に生きていけるのです。
お遍路は強力な一貫性が働く
精神修行のためにお遍路に来る人は多くいます。四国と言うお遍路の地は元々僧侶の修行の場所でもありました。修業の場である地で無礼な行為をするわけにはいきません。
四国を歩いて巡るお遍路さんは悪いことはしない、頑張る人だ、それなりの覚悟があるというイメージがあります。自分が白衣を着て菅笠をかぶれば、そのイメージに対して一貫性を感じてしまいます。お遍路らしくない行動はできなくなるのです。
また、道中は地元の人に「がんばってください」「ご苦労様です」と声をかけられます。また、自分がお遍路に行くことを周囲の人に宣言しているのであれば、他者からの視線により、さらに一貫性は高く感じてしまいます。
このような理由から、お遍路は精神修行や自分探しに向いているのです。お遍路というイメージのある環境に無理やり自分を置くことで、お遍路さんらしい行動をとらざるを得なくなるからです。
自分を変えたいと思うならお遍路へ
多くの人は今の自分を変えたいと感じて自己啓発の書籍を読み、家や職場で実行しようとします。しかし、うまくいく人は圧倒的に少ないのです。
それは、家や職場と言う環境で一貫性が働くためです。それまで周知されている自分というものが出来上がってしまった状態で、態度が急変するとやはり不自然で恥ずかしいと言う心理が働くのです。
また、お遍路に来る際は多くの人に宣言しておきましょう。お遍路から帰ってきて成長した姿を見せても大丈夫な環境をあらかじめ作っておくのです。「お遍路に行ったのに何も変わらないね」など言われたくありません。変わった方が自然な流れとなるのです。