四国八十八ヶ所:お接待のパワー
四国八十八ヶ所お遍路のお接待
四国を一周するように88か所の寺院を巡るお遍路があります。お遍路は約1200年前に弘法大師(空海)が四国で修業をし、その足跡を辿る修行の旅として続いています。
お遍路の文化は修行僧だけではなく地元の人にも根付いています。お遍路文化の一つに「お接待」があります。お接待とは、お遍路さんに対して食べ物や飲み物、宿などを無償で提供することを言います。
見ず知らずの人に物をプレゼントするという行為はお遍路以外では異常な光景です。しかし、四国では当たり前のように見ることができます。
私も歩き遍路の経験があります。そこで、多くの人からお接待を受けました。ミカン、ハッサク、お茶、お菓子などをもらいました。
なぜお接待をするのか。それは、四国ではお遍路をしている人は弘法大師と同じように尊い人だとされています。お遍路さんをサポートすると同時に、お供え物という意識があるのです。
お接待に働く返報性とは
社会心理学の世界で「返報性」というルールが証明されています。返報性とは、他人から何かプレゼントされると自分も同じようなやり方でお返ししたくなるという法則です。つまりギブ・アンド・テイク原則を言います。
人間は他人から恩義を受けたまま放置している状態を嫌う傾向があります。これは子供の頃から教育され、他人にお返しをしなければならないということを頭に叩き込まれているためです。
もし、返報性を無視してお返しを全くしないような人がいれば、社会から嫌われる存在になります。そうならないために子供の頃から訓練されているのです。
返報性の例として年賀状を考えます。あなたがハガキの年賀状を受け取ったら、その相手にはメールではなくハガキで送ると思います。返事を無視すると、来年からあなたに年賀状は届きません。
このように、相手と同じような方法でお返しをしたくなるのです。つまり、恩義が大きければ大きいほど、お返しも大きくなるのです。これが「返報性」です。
お接待には強力な返報性が働く
返報性は四国のお接待にも例外なく働きます。しかし、旅の荷物は最小限にとどめているため、お遍路の旅をしている最中にはお返しは難しいです。
一方的に自分がプレゼントされる立場が最期の寺に到達するまで続くのです。この間に「何かお返ししたい」という気持ちが蓄積し続けます。
四国の88か所すべての寺の参拝を達成することを「結願(けちがん)」と言います。結願した人は口をそろえて「感謝」「ありがたい」という言葉を口にします。返報性の気持ちが蓄積しているため、お遍路の旅を振り返って莫大な恩を受けたと感じる人が圧倒的に多いのです。
これこそ、お遍路の醍醐味となる所です。唯のハイキングと違って人との関わり、お接待、という独自の文化が効いているのです。
お遍路の旅が終わると、次は恩義を返す立場へと変わります。ただし、四国の地元の人に直接お返しすることは難しいので別の形でそれが働きます。
社会貢献をしたり、家族を大切にしたり、人の役に立ち感謝される行動を自然と取れるようになるのです。従って、お遍路をして自分を変えたいという人には最適な環境だということが分かります。