お四国病院
四国八十八ヶ所、お遍路に来る目的は様々ですが、中には病気を治すためと答えるお遍路さんがいます。実は、お遍路に来ると病気が治ると昔から信じられてきました。
そのため、四国八十八ヶ所霊場は「お四国病院」と呼ばれることがあります。四国八十八ヶ所という病院に行って病気を治すという考えによるものです。
しかし、これは迷信だと断言することはできません。なぜなら、実際にお遍路をすることで病気が治ったという事例は巡拝紀などに多く記録されているためです
お遍路さんによって書かれた巡拝紀には胃がんが治った、引きこもりが改善した、生まれつき歩けなかった妻が突然歩けるようになったなどという記録が残っています。
果たしてこれらの記録は事実なのでしょうか。
リウマチが治ったお遍路さん
私は大学生の時に歩き遍路を経験しました。歩き遍路ではバスツアーと違って地元の人や他のお遍路さんと一期一会の出会いが沢山あります。私も多くの人と話をしました。
その中で、お遍路で関節リウマチが治ったというお遍路さんに出会い、実際にお話を伺いました。
お遍路さんは中年の女性で、7回目のお遍路の途中でした。かつてリウマチを発症して歩けなくなり、食べ物も食べられない状況になったそうです。
その時、母親に「お遍路をしたら歩けるようになる」と言われてバスツアーのお遍路を始めたそうです。バスツアーの後は歩き遍路に挑戦するようになりました。歩き遍路を始めたころは1日に10kmも歩けない状況でしたが、徐々に歩けるようになったそうです。
いま、お遍路をしているのは病気が治ったお礼が目的。感謝の気持ちを込めてすべての札所でお参りしているのだそう。
私はそのお遍路さんと休憩所でお話をした後に5分ほど遅れて出発しましたが、もう追いつくことはありませんでした。20代の私より速いペースで歩いて行ってしまったのです。本当に歩けなかったのかなと思うほどでした。
関節リウマチは関節が壊れてしまう疾患で、全身の関節が動きにくくなります。関節リウマチが進行すると、あちこちの関節が変形し、歩けなくなってしまいます。
なぜお遍路が関節リウマチに効いたのかは不明です。ただ、関節リウマチの治療の中に「運動療法」というものがあります。薬物治療などに加えて、お遍路で歩くことが良かったのかもしれません。

思い込みで病気が治る:プラセボ効果とは

お遍路をするだけで病気が治るわけがないと考える方もいるかと思いますが、必ずしも否定することはできません。それは「プラセボ効果」という現象が存在するためです。
プラセボ効果とは実際には効果のない治療や偽物の薬を服用したにもかかわらず、病気が治癒したり快方に向かったりすることです。プラセボ効果は患者の思い込みによって生じていると考えられています。
プラセボ効果はオカルトではありません。実際に新薬を開発する段階でもプラセボ効果を考慮されています。

 

簡単な例を挙げると、新薬Aをある患者群に投与すると80%の患者で治療効果があったとします。しかし、治療効果があった患者が全員が新薬Aの効果によるものだとは言えません。プラセボ効果を差し引いて考えなければならないからです。
そこで、全く効果のない偽薬Bを別の患者群に投与したところ20%の患者で治療効果がありました。したがって新薬Aで治療効果があった患者は60%ということになります。
実際の現場でもプラセボ効果は必ず考慮されています。そのため、お遍路で病気が治るという事実があったとしても不思議ではありません