寺院には様々な種類の仏像があります。表情や服装など仏像によって異なります。また、仏像に込められた意味やご利益も異なってきます。仏像の中でも薬師如来(やくしにょらい)は現世利益を実現してくれる仏像です。
如来と名の付いた仏像は既に悟りを開いているという設定なので、仏像の中でも最高位にランクづけられます。主な如来には釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来、大日如来があります。
薬師如来のエピソード、仏像の特徴、ご利益を見ていきましょう。

薬師如来のエピソード

薬師如来は現世利益の仏様
歴史上最初の仏像は、仏教の開祖である釈迦をモデルとした釈迦如来像でした。しかし、時代が進み仏教の解釈が多様化すると様々な仏像が次々に作られるようになりました。釈迦如来以外の仏像は経典に登場する空想上の人物をモデルにしています。
ある菩薩が修行に励んでいました。修行の結果、その菩薩は薬師如来として悟りを開き、全ての生き物に対してご利益を与えるようになりました。
薬師如来は我々の住む世界のはるか東にある浄瑠璃世界という浄土に住み、そこから我々を救いに来るとされます。そのため、薬師如来の正式な名前は薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)と言います。
浄瑠璃世界は瑠璃・ラピスラズリという宝石が一面に敷き詰められ、青く光る世界と言われています。

仏像の見方

薬師如来像の特徴
釈迦如来や阿弥陀如来など如来の名が付く仏像には共通する特徴があります。白毫(びゃくごう)眉間の間にある毛で右巻きに巻かれています。白毫から放たれる光によって世界が照らされます。また、ふくよかな体形、蓮の台座、螺髪(らほつ)といった如来像の特徴が共通しています。
薬師如来だけの特徴としては薬壺(やっこ)と呼ばれる壺を左手に持っていることです。この壺にはすべての病気を治す薬が入っているとされています。
ただ、平安時代以前に作られた薬師如来像では薬壺を持っていないことが多いので釈迦如来との区別が難しくなります。
また、薬師如来には7体の分身が存在すると説かれている経典があります。そのため、薬師如来像の後ろには7体の小さな七仏薬師(しちぶつやくし)が配置されている場合もあります。
薬壺と七仏薬師が薬師如来像の大きな特徴です。

薬師如来のご利益

仏教の経典に登場する薬師如来には、12個の役目が説明されています。これは十二誓願(じゅうにせいがん)と言って薬師如来自身が定めた目標のようなものです。
中でも注目された誓いとして6番目と7番目にある病気を治すという項目が人々をひきつけました。それは、現在のように医療が発達していない時代、不治の病が多く薬師如来にご利益を得ようとする人々が多くいたためです。
誓いの内容はすべて生きている人がご利益となるような内容です。そのため薬師如来は現世利益(げんせいりえき)の仏として有名です。
対照的に阿弥陀如来は死後の人々に対して極楽浄土へ連れて行ってくれるというご利益をもたらします。これを後世利益(ごせりえき)と言います。
▽十二誓願

1.光明普照 悟りを開いたら、すべての生き物を悟りに導く。
2.随意成弁 悟りを開いたら、仏となる可能性を目覚めさせる。
3.施無尽仏 悟りを開いたら、仏となる可能性を持つものに、あらゆる物品を施す。
4.安心大乗 悟りを開いたら、世の外道を正し、全ての生き物を仏道へと導く。
5.具戒清浄 悟りを開いたら、戒律を破ってしまった者も戒律を守れるよう助ける。
6.諸根具足 悟りを開いたら、身体障害・病気・身体的苦痛を癒す。
7.除病安楽 悟りを開いたら、病気や苦悩を除き払えるよう助ける。
8.転女得仏 悟りを開いたら、成仏するために男性への転生を望む女性を助ける。
9.安心正見 悟りを開いたら、精神的苦痛や煩悩を浄化できるよう助ける。
10.苦悩解脱 悟りを開いたら、人々を苦悩から解放させよる。
11.飲食安楽 悟りを開いたら、飢えている人に豪華な食事をたくさん食べさせる。
12.美衣満足 悟りを開いたら、衣服のない人たちに衣服を与える。