仏像は文字ばかりでわかりにくい仏教典に登場する仏を、イメージしやすいように具体化したものです。様々な宗派や時代の流れにより様々な仏像が生み出され現代にいたります。

中でも降三世明王(ごうざんぜみょうおう)はヒンドゥー教の神であるシヴァ神を踏み潰す仏です。降三世明王のエピソード、仏像の特徴、ご利益を順に説明します。

降三世明王のエピソード

明王とは

仏像を簡単に4つのカテゴリに分類すると如来、菩薩、明王、天に分類されます。降三世明王は明王グループに属し、他の仏と異なる役割を果たします。

如来や菩薩は人々を優しく悟りへ導く仏です。しかし、すべての人がその教えを受け入れるとは限りません。煩悩をたくさん持つような人には仏教の教えが届かないのです。そこで明王は怒りの形相で激しく説き伏せ、正しい道へ導こうとするのです。

明王が怒りに満ちた表情をしているのは、人々を煩悩から救いたいという優しさから発生するものです。

三界の勝利者、降三世明王

降三世明王のルーツはインド神話にあり、時代とともに密教に取り入れられました。仏教のエピソードでは、ヒンドゥー教で三界(現在・過去・未来)を治めるシヴァ神と妻(パールヴァティー)に大日如来の教えを説き、仏教に改宗させるために降三世明王が派遣されました。その結果、シヴァ神と妻を降伏させることに成功したとされます。

五大明王

降三世明王は単独では祀られず、五大明王の一員として祀られます。五大明王は東西南北に配置される明王と中心に不動明王が配置される5体の明王で、密教で信仰されます。

様々な種類の明王が密教の経典に登場しますが、特に五大明王が中心的な役割を担うとされます。五大明王は真言宗と天台宗で少し異なり、真言宗(東密)系では烏枢沙摩明王の代わりに金剛夜叉明王が含まれることが多いです。

また、密教では如来が明王に変化して怒りの形相で人々を説き伏せるという考えがあり、教令輪身(きょうれいりんしん)と言います。降三世明王は阿しゅく如来が変化したものとされます。つまり、大威徳明王の本来の姿は阿しゅく如来ということになります。

明王 教令輪身
不動明王 大日如来
降三世明王 阿しゅく如来
軍荼利明王 宝生如来
大威徳明王 阿弥陀如来
烏枢沙摩明王 不空成就如来

降三世明王の見方

明王の特徴

・忿怒
・炎

降三世明王をはじめとする明王の表情は怒りに満ちています。これは忿怒(ふんぬ)の形相と呼ばれ、如来や菩薩には見られません。

優しい仏様の教えが耳に届かない人々を正しく導くためにこのような表情をしています。また、明王の背後には炎をかたどった火焔光(かえんこう)があります。焔光も人々の煩悩を焼き尽くして悟りへ導こうとする明王の意図が表現されています。

降三世明王の特徴

  •  降三世印
  • シヴァ神を踏み潰す

降三世明王は2本の手を正面でクロスし、左右の小指を絡ませたスタイルをしています。これは降三世印といい、降三世明王に特徴的な印です。その他の手には武器などを持ちます。

また、右足でシヴァ神を、左足でシヴァ神の妻(パールヴァティー)を踏み潰しています。これは、大日如来の教えに従わなかったヒンドゥー教の神々を説き伏せた様子を表しています。

降三世明王のご利益

煩悩滅却

降三世明王は、優しい教えでは悟りに導くことができない煩悩が多い人たちに対して怒りの形相で正しい道へといざないます。また、降三世明王は三世(現在・過去・未来)にはびこる3つの煩悩、三毒(貪・瞋・痴)に勝利したとされることも煩悩滅却のご利益につながります。

三毒とは「よくばること、怒ること、真理に対して無知であること」を指します。これらは仏教において克服すべき煩悩とされています。